2026年02月02日

【SF】齊藤想『遠ざかる海』(ChatGPT_94点)

第29回伊豆文学賞に応募した作品その1です。
本作は衝突の原理です。深刻なできごとと、下らないことを組み合わせる。
海が消えるのというのは、漁師にとって深刻なことです。それを、飄々とした親子の姿を通じて、なるようになるという下らないレベルに落とし込んでいます。
入間千畳敷、プレート、熱海温泉、恵比寿島といった伊豆らしい地名やワードを注ぎ込んでいます。
自分としては出来がいいと思っていますが、そもそも伊豆文学賞でSFはありなのか、という根本的な問題があるのですが。
ジャンルはちゃんと考えましょう、が反省点で(笑)

こんな感じで、具体的な技法を無料ニュースレターで紹介します。
次回は3/5発行です。



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 『遠ざかる海』 齊藤想

 小学生五年生の幸一の目に、奇妙な光景が映り続けた。海が、すっと、離れていく。
 漁港に停泊していた漁船が、むき出しになった岩肌の上で横倒しになる。自転車を走らせて入間千畳敷にいくと、そこは野球場のように広い岩場となり、その先にある恵比須島まで歩いて渡れるようになっていた。
 この奇妙な現象に、学者たちは口々に自説を唱える。
「地震の前触れではないか」
「地殻に穴が開いたのではないか」
「重力や磁力の影響ではないのか」
 だが、だれも原因は分からない。日にひに海が遠ざかっていくのを見守るしかない。
 幸一の父は漁師だった。父は漁場から戻る途中で座礁し、横倒しになった自分の漁船を見ながら「天変地異の始まりだな」とぼやいた。母は「そのうち元に戻るわよ」といつも通りに素麺を茹でている。
 幸一は父に連れられて、元々の海岸線の位置に立った。水平線は遠くに過ぎ去り、もはや地平線しか見えない。
 干からびた海藻が岩肌に積み重なり、潮風に吹かれて揺れている。
「お父さん。ちょっと思ったけど」
「なんだ、幸一」
「海が遠ざかっているのではなくて、伊豆が高くなっているんじゃないかなあ」
「そんなバカなことがあるか」
 父が笑ったので、幸一はムキになる。
「だって、伊豆は四枚のプレートがぐいぐい押し合っていると学校で習ったよ。何かの拍子でその力が強くなり、突如として伊豆の大地が盛り上がれば、海が遠くなるはず」
「急に力が強くなった原因は何だ」
「そんなの知らないよ。地球に聞いて」
 父は黙った。そして、ぽつりとつぶやく。
「熱海温泉の温度が上がったらしいな」
「それがどうしたの?」
「プレートを押す力が強くなったのが原因なら、温泉の温度も上がるのも納得だ」
 父が同意したので、幸一は喜んだ。
「だがなあ、原因が分かったとしても、この海では漁師として仕事にならんぞ」
「そうだねえ」
 幸一は、ひたすら続く岩肌を眺めた。車で漁船をけん引するにしても道がない。
「個人ではどうにもならんな。お父さんは別の仕事を見つける。海が帰ってくるまで、幸一は船を守ってくれ」
「あいあいさー!」
 幸一は、さっと、敬礼をする真似をした。
 
 父は温泉街で働き始めた。幸一はたまに漁船の様子を見て、錆びないようにペンキを塗り足す。
 市役所は漁業を復活させるために、岩肌に片側二車線の道路を作り始めた。すると、珍しい光景を見るために、観光客が集まり始めた。父の漁船は「置き忘れた漁船」として、観光名所になった。
「おーい、幸一。お土産物屋を始めるぞ」
 父は温泉街から戻ってきた。父はいつも前向きで、人生なんとかなると信じている。
 どこで仕入れたのか分からないが、”置き忘れた漁船”グッズの販売を始めた。
 母は、ところてんと山葵漬けを観光客にアピールしている。
 幸一は父に聞いた。
「なんで温泉街から戻ってきたの?」
 父は観光客に聞かれないように、幸一の耳元でささやいた。
「温泉の温度が下がり始めた」
「えっ、もしかして?」
「たぶんプレートの力が弱まっている。幸一の理論が正しければ、海が戻ってくる。だから、商売するならいまのうちだ」
 父と母は息を合わせて、まるで生粋のお土産物屋のように、声を涸らせた。

 しばらくして、海が戻り始めた。市役所が突貫工事で作った道路は無駄になった。
 学者たちが海が戻ってきた理由について議論を始めたが、幸一には興味がなかった。
 日にひに海水が迫ってきて、「置き忘れた漁船」も海に浮かんだ。
 幸一は父に自慢した。
「ペンキ塗りは完璧でしょ」
「ああ。さすがおれの息子だ」
 優雅に揺れる漁船の上で、父は幸一の頭を撫でた。しかし、父は不安そうに言った。
「ところで、海面が上がり過ぎてないか? 恵比寿島まで水没しそうだぞ」
 幸一は父に答える。
「そうなったら、そうなったで、なんとかなるでしょ」
「まあそうだな」
 父は幸一の肩を抱いた。
 二人の目の前には、まるで地球を覆いつくすような水平線が続いていた。

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posted by 齊藤 想 at 21:00| Comment(0) | 自作ショートショート | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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