第48回小説でもどうぞに応募した作品その1です。テーマは「孤独」です。
本作はティモシー・トレッドウェルを紹介した映画『グリズリーマン』に触発されて書いた掌編です。
トレッドウェルは国立公園局からの警告を無視して、野生熊との接触を続け、最後には女性と一緒に食い殺されてしまいます。
慣れている人間でも、一瞬の油断、ほんの少しの間違い、もしくは偶然によって殺されてしまう。
自然の厳しさを実感しました。
ストーリーも基本的にはトレッドウェルの生涯に沿っていますが、女性との恋愛は完全に創作ですし、ちょいちょい変更しているのでご注意を。
創作にはインプットが大事だと思います。インプットしているから、アウトプットできるものだと思っています。
こんな感じで、具体的な技法を無料ニュースレターで紹介します。
次回は11/5発行です。
・基本的に月2回発行(5日、20日※こちらはバックナンバー)。
・新規登録の特典のアイデア発想のオリジナルシート(キーワード法、物語改造法)つき!
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『孤独のルール』 齊藤 想
高校卒業まで、カールは普通の青年だった。郊外の中流家庭で育ち、高校では高飛び込みの選手として注目を浴び、大学には奨学金で通うことができた。
遠い町での一人暮らし。それが、転落のきっかけだった。
両親の目が届かないことで、大学で悪友とつるむようになった。アルコールとマリファナに溺れる日々。挙句の果てに麻薬の売買にも手を染め、警察に逮捕された。わずか2年での退学処分。
カールにはエイミーという恋人がいた。
エイミーは、チアガールチームのセンターだった。エイミーはカールが高飛び込みの有力選手だったから交際していたようなもので、カールが選手としてのキャリアに終止符を打つと、お払い箱にされた。
大学時代の友人も、波が引くように去っていった。カールが親友だと信じていた同級生たちも、例外なく連絡が取れなくなった。
人間とはこんなに冷たいものなのか。
夢も希望もないカールが意味もなくテレビを見ていると、彼の目に映ったのが、アラスカのグリズリーだった。カールには、グリズリーが神の使いのように見えた。
カールは、子供のころから動物が好きだった。ペットのアカリスとは親友だったし、いまでも寝るときにはテディ・ベアの人形を抱いている。
グリズリーが密猟者に殺されていることを知ると、いてもたっても居られなくなった。
両親はもちろん反対したが、その両親が心臓病と脳出血で相次いで急死した。
カールは相続で得た両親の財産を処分すると、体ひとつでアラスカに飛んだ。
カールはアラスカの国立公園内にキャンプを張った。荒野にはアルコールもマリファナもない。資金が尽きると、街に戻ってグリズリーに関する観察記録を出版し、各地で講演をすることで収入を得た。
カールは、アラスカのグリズリーによって立ち直った。
カールは、自らの安全を守るため、いつかのルールを決めた。
グリズリーを刺激しない。近くで大声を出さない。エサを与えない。急に立ち上がったり逃げたりしない。そうすれば、グリズリーは人間を危険と見なさず、大自然にいる同居人として暖かく迎えいれてくれる。
ひとりでいるからこそ、守ることのできるルール。これを、カールは「孤独のルール」と名づけた。
専門家や国立公園管理者は、何度もカールに警告を発した。
クマよけのスプレーを常備すること。クマよけの電気柵を張ること。キャンプは1週間に1回は移動すること。グリズリーに近づかないこと。
カールは全てを無視した。自分は特別な存在であり、グリズリーとは堅いきずなを繋いでいると信じていた。
カールが有名になったころ、エイミーから手紙が届いた。エイミーはチアガールとして成功することができず、いつしか自分の限界を感じて、気が付いたらいつかのカールと同じようにアルコールと麻薬に溺れるようになったそうだ。
心を動かされたが、カールはエイミーを無視した。「孤独のルール」を破ることはできない。それが、自分とグリズリーを守ることに繋がる。
それでも、エイミーは繰り返し手紙を送ってきた。
大自然の中で立ち直ったカールの姿を見て、感動した。私も立ち直りたい。ひとりにしないで欲しい。孤独に耐えられない。
カールの心は揺れた。ここ10年間、人間とまともに交流していない。出版は原稿を書くだけの孤独な作業だし、講演も終わったらそそくさと退出した。カールの変人っぷりは有名になっていて、自ら交流しようと言ってくる研究者はだれもいない。
カールが有名になるたびに「彼の行動は危険すぎる」「グリズリーは友好的という誤解を招く」と批判は強まる一方だった。
カールは、手紙を前に考えた。エイミーもグリズリーと仲良くなれたら、研究者からの批判を一掃できる。これはチャンスかもしれない。
カールは、エイミーをアラスカに受け入れる決断をした。
エイミーはテレビと本しか見ていないので、大自然を甘く考えていた。もちろん、その幻想を振りまいたのは、カール自身だ。
カールがいつものようにビデオを撮影していたら、巨大なグリズリーが、カールとエイミーに近づいた。カールの目には、グリズリーが「お前の横にいるのは誰だ!」と言っているように聞こえた。カールはグリズリーに落ち着くよう声をかけた。
いつもなら、それで鎮まる。しかし、見知らぬ人間がいることに不安だったのか、グリズリーがエイミーに向けて咆哮を上げた。
恐怖に負けたエイミーが、悲鳴を上げた。
その瞬間、二人の人生は終わりを告げた。
結局のところ、カールは孤独でいることが幸せだったのだろうか。
公園管理者として、残された映像を確認した私は、そうではないと確信している。
カールとエイミーは、近づくグリズリーを前にして、逃げることも戦うこともせず、その場で食われるがままになっていた。
ビデオが倒れたとき、二人の手が繋がっている様子が映し出された。
カールは最後になって、自らに課した「孤独のルール」を捨てた。ただ、それは、二人が望んだ結末を受け入れるための儀式だったように思えるのだ。
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2025年10月13日
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