2025年07月07日

【SS】齊藤想『プラシーボ手術』_ChatGPT85点

第21回坊ちゃん文学賞に応募して落選した作品です。

この作品ですが、最初に書いたのは数年前です。ストックにした経緯は覚えていないのですが、当時は「ひとつの公募に3作まで」と決めていて、自分内選考で落選したのだと思われます。
それを推敲・再構築して、坊ちゃん文学賞に応募しています。
具体的にどこを変更したのかというと……

ということで、具体的な技法はこちらの無料ニュースレターで紹介します。
次回は8/5発行です。



・基本的に月2回発行(5日、20日※こちらはバックナンバー)。
・新規登録の特典のアイデア発想のオリジナルシート(キーワード法、物語改造法)つき!

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『プラシーボ手術』 齊藤 想

「おじいちゃんよく頑張ったね」
 兼吉はゆっくりを目を開けた。執刀医だけでなく娘と二人の孫もいる。末期がんの大手術を受けたのだから、数日は昏睡状態だったはずと思って携帯を開いたら、まだ一日しかたっていない。
 まだ生きている。兼吉はそのことに感謝した。
「思いのほか手術は順調でしたよ」
 生命感にあふれる若い医師は、満足そうな笑みを兼吉に向けた。
「CTスキャンでの事前検査では、がんは全身に転移していて手の付けられない状態だと思われました。しかし、開腹してみると、転移していたがんは奇跡的にもほんど良性で、肝臓にあったこぶし大のがん細胞を取り除くだけで手術は終わりました。本当に幸運でした」
「それは本当ですか?」
「本当です。執刀した私が証言するのですから、間違いありません」
 兼吉は開いたばかりの腹に触れようとして、痛みに顔を歪めた。娘と孫二人が心配そうに顔を寄せる。
「おじいちゃん、無理はいけないよ」
「そうだよ、おじいちゃんにはまだまだ元気でいてくれないと」
「いまは人生百年の時代だぜ。この程度でくたばっている場合じゃないから」
 兼吉は、家族の励ましに感動した。
 いつもは老人のことを「死にぞこないの役立たず」とか「旧石器時代の石頭」とか「病気だらけの金食い虫」とけなし続けている。「働かざるもの食うべからず」と夕飯のおかずを取り上げられたこともある。
 入院してからも、お見舞いなどめったに来ない。
 そんな冷たい家族なのに、命の危機となると変わるものだ。やっぱり家族だと、兼吉は胸の奥が熱くなるのを感じた。
 このような気持ちになれるのなら、何度手術を受けても良い。そこまで、兼吉は思った。

 兼吉が病院に担ぎ込まれたとき、娘と二人の孫が真っ青になった。何しろ、彼女たちは金遣いが荒くて貯金が一切ない。金があれば遊興費に使ってしまう。三人で病院に医療費の一切の負担はできないとねじ込んだら、担当医から奇妙な提案を受けた。
「それなら、プラシーボ手術はいかがでしょうか」
 初めて聞く手術内容に、娘と二人の孫は目が点になった。医者は手書きの資料を広げながら、淡々と説明する。
「ようするに偽手術です。偽薬でも、効果があると患者が信じていれば、実際に効くことがあります。このことをプラシーボ効果といいます。そのため、新薬開発では被験者を半分に分けて、片方に偽薬を飲ませるほどです」
 なるほど、と娘と二人の孫はうなずく。
「がんの手術には金がかかります。兼吉様のお手持ちの範囲内で効果をあげようとすれれば、偽手術をして本人に全快したと信じさせるしかありません。私個人としては、ご家族に少しでもご負担をお願いしたいところですが」
 兼吉の娘は、もっともらしい理由を作り上げて、医者の懇願をはねつける。
「うちにはそのような余裕はありません。医学部に通う長男には学費と独り暮らしの仕送りが、高校生の長女には予備校と大学受験の費用と毎月の美容院代が、この私にも最低限のアンチエイジングのケアに通い続けなければいけません。いくらお金があっても足りません。夫の給与も毎年下がり続けています。偽手術とはいえ、父には手術を受けさせるだけでもありがたいと思ってもらわないと」
 医者はブランド品で身を固めた三人の姿を見ながら、残念そうに首をふる。
「それなら、費用の負担はできないが、手術にはご同意いただける。ということで、よろしいでしょうか」
「仕方ないでしょう。父を見捨てたと言われたら目覚めが悪くなります。手術には同意しますが、費用負担は一切できないことは改めて強調しておきます。父の資産内で収めてください」
「そこまで言われると仕方がありません。努力してみましょう」
 医者はため息をつきながら、手術同意書を娘に差し出した。娘は書類内容をろくに見ることもなく署名した。

 医者は手術の結果には満足していた。兼吉は元気そうで、家族たちは必死に兼吉をいたわる演技をしている。
 医者は家族にひとつの条件を出した。偽手術の効果を最大限に高めるには、家族の愛情が必要です。兼吉さんの心が満たされれば、生命力が高まり、死ぬ直前まで元気に過ごせるでしょう。ある日突然、ぽっくりです。兼吉さんにとっても家族にとっても、理想的な看取り方といえるでしょう。
 もし家族からの愛情が足りなければ、体は急激に弱り長い介護生活が始まります。そうなると、否が応でもご家族に負担をお願いすることになります。
 医者の説明に、家族は喜んだ。とくに「ぽっくり」に反応した。
 家族は兼吉が受けたのは偽手術だと信じている。しかし、本当に受けたのはカーテルを使用した最先端の手術で、本人の承諾を得た上で科学発展のための実験台となってもらったのだ。
 兼吉は被験者なので、もちろん無料だ。それどころか謝礼金まで払われている。
 おそらく、兼吉は家族の想像を超えて長生きをすることだろう。本人の体力からして平均余命を超えるに違いない。
 問題は、寿命を迎えるまで、兼吉が偽手術を受けたという演技を続けることができるかどうかだが。

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posted by 齊藤 想 at 21:00| Comment(0) | 自作ショートショート | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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