2025年06月16日

【掌編】齊藤想『大草鞋』

第2回新潟文学賞に応募した作品その2です。
この作品も新潟本からアイデアをもらいました。
佐渡ヶ島には「大草履」を掲げる習慣があるそうです。これは珍しいと思い、採用しました。公募主旨からして、新潟にしかない風習を取り上げるのは良いかなと思いまして。

ということで、具体的な技法はこちらの無料ニュースレターで紹介します。次回は7/5発行です。



・基本的に月2回発行(5日、20日※こちらはバックナンバー)。
・新規登録の特典のアイデア発想のオリジナルシート(キーワード法、物語改造法)つき!

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『大草鞋』 齊藤 想

 彰人はビックフットを見たことがある。しかも故郷の佐渡島でだ。
 佐渡島には、村の境界に大草履を掲げる風習がある。「禍が村に入り込まないように」との願いと同時に「この村には、この大草履をはくほどの大男がいるぞ」と悪霊を脅かす意味もある。
 彰人の地元にも、大草履の風習が残っている。コロナ禍で大変な時期だったこともあり、祖母が「コロナを追い払え!」と、いつもより大きな草履を編み上げて、村の入口である石橋の欄干にぶら下げていた。
 ところが、この大草履がたびたび盗まれる。村のひとたちは怒った。嫌がらせにしても悪質だ。人々の願いをあざ笑うかのような行為に、村人は交代で見張ることで対抗することになった。
 たまたま大学の夏休みで帰省していた彰人にも、見張りの順番が回ってきた。彰人は祖父の軽トラックの中で仮眠を取りながら、大草鞋の監視を続ける。
 彰人が車を止めたのは、石橋の近くにある消防小屋の前だ。フロントガラスを通して、巨大な大草鞋が見える。それにしても、祖母の草鞋は巨大だ。靴のサイズでいえば五十センチほどだろうか。これなら、コロナウィルスも逃げ出すこと間違いなし。
 それにしても、この大草鞋を誰が盗むのか。盗んでも使い道がない。そう考えながらウトウトしていたら、日付が変わるころ、山から人とも熊ともつかない大きな何かが下りてきた。
 彰人は慌てて軽トラックのエンジンを掛ける。犯人をライトで照射する。すると、大柄で毛むくじゃらの何かが、大草鞋に手をかけているのが見えた。
 あれは未知の怪物だ。襲われるかもしれない。彰人はパニックになりながらも、クラクションを鳴らした。怪物は軽トラックに向けて少し頭を下げると、足を軽く引きずりながら、大草鞋を手に森の奥へと消えていった。
 佐渡島に熊はいない。見たものを祖母に話すと「それは山神様じゃのう」と答えた。祖母は「足を怪我して大草鞋が必要になったのじゃろ。山神様がきてくれるなら、この村も安心じゃ」と喜んでいる。
 あれはビックフットではないのか。彰人はそう確認しているのだが、祖母が嬉しそうに「山神様」を連発するので、ビックフットの正体は山神様だと納得するしかなかった。
 しばらくしてコロナは終息に向かい、ワクチンのおかげか山神様のおかげかビックフットのおかげかは分からないが、村からひとりもコロナ患者は発生しなかった。
 今年も祖母は、「山神様のお礼に」と、大草鞋を編み続けている。

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posted by 齊藤 想 at 21:00| Comment(0) | 自作ショートショート | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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