2025年02月17日

【SS】齊藤想『人材斡旋』(ChatGPT_75点)

第40回小説でもどうぞ!に応募した作品その2です。
テーマは「演技」でした。
これは特殊詐欺、いわるゆ「オレオレ詐欺」をテーマにしています。
演技というと映画やドラマが連想されますが、少しひねって犯罪における演技を選びました。前半はオレオレ詐欺の手法が描かれていますが、このあたりは実際の特殊詐欺グループの手法を調べています。会社組織も、実際の事件を多少参考にしました。
もちろん、かなり盛っていますが。

ということで、具体的な技法はこちらの無料ニュースレターで紹介します。次回は2/5発行です。



・基本的に月2回発行(5日、20日※こちらはバックナンバー)。
・新規登録の特典のアイデア発想のオリジナルシート(キーワード法、物語改造法)つき!

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『人材斡旋』 齊藤 想

 桐樹は緊張していた。今日は特殊詐欺グループの新人としてのデビュー戦だ。桐樹の役割は「掛け子」。電話口で「オレ、オレ」と声をかけて、老人をだます役目だ。
 桐樹が所属する特殊詐欺グループは、会社経営のような組織になっている。入社すると1カ月のトレーニング期間がある。そこで適正を見極められて、グループ内の様々な部署に割り当てられる。
 「掛け子」は組織の末端ではあるものの、成績によっては出世が期待できる登竜門のような部署だ。
 社長はふとった中年の男だ。社長の口癖は「人材は人財」だ。貴重な人財を見逃さないために、いつも社内を巡回している。
 桐樹の前に、調査班が出した電話番号が並べられる。そのリストに従って、桐樹は順番に電話をかける。
 全てが老人宅に繋がるわけではない。未使用だったり、会社だったり、中にはどう間違えたのかピザ屋の場合もある。
 電話をかけ始めて30分。ついに当たりを引き寄せた。老人の声に合わせて、桐樹は呼びかける。
「あ、もしもし。オレなんだけどさあ」
 ここでわざと咳払いをする。
「ちょっと風邪ひいちゃって」
 声の違いをごまかすテクニックだ。しばらくして、低い老人の声が返ってくる。
「急に電話かけてきてどうした」
 信用したらしい。第一関門はクリアーだ。
 フロアの奥に向かって合図をする。上司役と警察官役が、電話の横で待機する。
「オレさあ、集金途中で会社の金を落としちゃって」 
「会社の金だと?」
 電話の向こう側から、老人が怪訝そうな声を上げる。
 ここからが「掛け子」としての実力が試されるときだ。バレそうなピンチを乗り切り、社長に自分の優秀さを証明するのだ。
 桐樹は何気ない風を装って、電話を続ける。
「オヤジに、おれの会社のことを言わなかったけ」
「会社もなにも、お前はワシの事務所の下っ端じゃないか。なんだ、周囲にだれかいるのか?」
「まあ、そうなんだけど」
 桐樹は声を潜めた。社長に合図をする。どうも相手はヤクザのようだ。このまま続けていいのか判断を求める。社長の決断は「続行」だった。
 老人の声にドスが効き始める。
「お前よう、上納金を途中で紛失なんて、どう落とし前をつけるつもりだ」
 すでにトレーニング期間に叩きこまれた想定問答からは外れている。アドリブで乗り切るしかない。
「実はとなりに警察が……もしかしたら遺失物の届け出がないかと思って交番に出向いてさあ」
「なに、警察だと! お前はなんというバカ者だ。この電話の内容は聞かれていないだろうな」
「オヤジも声を下げて。ちょっといま警察に代わるから」
 桐樹は警察官役に合図をする。警察官役の先輩は電話を受け取ると、遺失物はまだ発見されないこと、大事そうなカバンなので出てきたらすぐに連絡することを老人に伝えた。
 警察官役は続ける。
「とても貴重なものと伺っているので、所轄の警察官に当たらせています。本日中は無理かもしれませんが、数日あれば発見される可能性は高いと思います」
 老人は納得した様子だったので、電話が桐樹に戻ってきた。
「だから、なんとか助けてくれないか」
 桐樹が老人に訴えると、老人は考えている様子だった。うめき声が聞こえる。
「お前は、この不始末について、どう落とし前をつけるつもりだ」
「オレも必死に探す。見つからなかったら、指どころか腕を詰めてもいい。だから今度だけは助けてくれ」
「お前の汚い指などいらん。いつの時代の話だ。振り込めない金だから、いまから現金を用意する。三時間後に取りにこい」
「あ、オレは必死に探すから、代理人がいくかもしれない」
「バカなことを言うな。お前が取りにこい」
「早いうちに探さないとヤバいじゃない。落としそうな場所は、オレしか分からないから」
 電話の向こう側から「まったく」という声が聞こえてくる。
「事務所だとまずいな。なら、〇▲喫茶店にくるように代理人に伝えろ。代理人に余計なことは言うなよ」
 荒々しく電話が切られた。
 役目を終えた桐樹が電話を置くと、社内に静かな拍手が広がった。様子を見守っていた社長が特に大きな拍手を送っている。社長はでっぷりとした腹を揺らせながら、桐樹の肩に手を置いた。
「君の演技は素晴らしい。咄嗟のウソも完璧だ。掛け子ではもったいない。ちょっと、外まで付き合ってくれ」
 そう告げられると、桐樹は有無を言わせず車に乗せられた。五分後に白亜の殿堂のような事務所に到着すると、そこには重鎮というべき風格のある面々が待っていた。
 彼らは桐樹に次々と難しい質問を浴びせかける。桐樹はわけもわからないまま、演技と咄嗟のウソで乗り切る。
 彼らは納得し、満足したようだ。
「合格だ」
「おめでとう」
「これから頑張ってくれたまえ」
 桐樹は彼らと握手を交わしながら、社長に尋ねた。
「いったい、これは何の試験ですか? 私は何に採用されたのですか?」
 社長は笑いながら答える。
「わが社は人材斡旋も兼ねていてのう。演技とウソは、政治家として最も必要な能力だと思わんかね」

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posted by 齊藤 想 at 21:00| Comment(0) | 自作ショートショート | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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