第40回小説でもどうぞ!に応募した作品です。テーマは「演技」でした。
本作は「仲の良い夫婦」を演じなければならない夫婦の話です。
この系統としては、夫婦とも殺し屋だったという映画『Mr.&Mrs. スミス』があります。このパターンは二人が最後まで殺し合うと物語にならないので、基本的には和解で終わります。
ということで、具体的な技法はこちらの無料ニュースレターで紹介します。次回は2/5発行です。
・基本的に月2回発行(5日、20日※こちらはバックナンバー)。
・新規登録の特典のアイデア発想のオリジナルシート(キーワード法、物語改造法)つき!
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『仮面夫婦』 齊藤 想
夫婦仲は最悪だった。夫の成幸は職場内で不倫をして、妻の彩菜はスポーツジムの経営者といい仲になっている。
それでも、二人には約束があった。
「娘のルキアの前では、最後まで仲の良い夫婦を演じよう。結婚式で神父の前で誓ったように、死が二人を分かつまでは」
逆にいうと、相手が死ねば結婚生活から解放される。だから、夫婦とも自宅では油断ができない。
妻がルキアの幼稚園の用意をしながら、笑顔で朝食を用意する。
「はい、これはルキア、これはパパね」
彩菜がテーブルの上にシチューを並べる。
「おいしそう!」
ルキアは喜ぶが、成幸の皿からは怪しげな匂いが漂ってくる。彩菜はシチューに何を入れたのか。
「パパは食べないの?」
「あ、うん。もちろん食べるさ」
成幸は「仲の良い夫婦」を演じるために、笑顔でシチューを口に含む。咥内がピリピリする。
彩菜が意味ありげに微笑みかけてくる。
「どう美味しい?」
成幸は、シチューを飲み込まないように答える。
「うふ、とてもほいひいよ」
「なにそれパパ面白い」
ルキアが笑い転げるすきに、成幸はトイレに駆け込んで吐き出す。まいったなと思いながら食卓に戻る途中で妙な殺気を感じ、慌てて両足を広げる。
足の間に、錆びた包丁が刺さっている。彩菜が「うっかり」落としたのだ。
「あら、嫌だ、ごめんなさいね。ちょっと手が滑っちゃって」
成幸が包丁を拾い上げる。
「ずいぶんと錆びている包丁だなあ。これで野菜とか切れるのかよ」
「切れるわけがないじゃない。それに、破傷風菌とかついていそうだし」
「そうだなあ、危ないよなあ」
成幸は軽く笑いながら、包丁を返す。
最近の彩菜の攻撃はますます巧妙になっている。まったくもって油断できない。
妻とルキアが幼稚園に向かうのを見届けてから、成幸は出社した。面白くもない仕事を夕方まで続ける。
退社時間が近づいたころ、一本の社内メールが届いた。メールが指示するままに、成幸は人気のない会議室へと向かう。
その会議室で待っていたのは、成幸の不倫相手である上司だった。彼女は四十代後半で独身。部下には厳しく、社内では一、二を争うほどの嫌われ者。
それでも、成幸は彼女に猛烈なアタックを繰り返した。上司もひとまわり違う上に既婚者からの求愛に戸惑いながらも、ついつい関係を深めていった。
もちろん彼女は成幸の家庭の状況を把握している。だから、成幸が顔を出すだけで今日も無事だったと安心する。
上司はだれもいないのを確かめてから、成幸の体に抱きつく。ふんわりと、甘い香りが立ち上る。
「成幸さん、今日も生きていてうれしい」
成幸は頭をかきながら、まるで何気ない日常のように話す。
「今朝はかなり危なかったよ。なんとか回避できたけど」
上司が成幸のことを見つめる。
「笑っている場合じゃないわよ。もう決心するときだわ。彩菜さんを片付けないと、成幸さんが殺されるのよ」
物騒な話は場所を選ぶ。人の目がなく、だれにも聞かれることのない奥まった会議室は、絶好の場所だった。
「おれには娘がいるから、刑務所に入るわけにはいかないんだ。守るべきところは守らないと」
「だから殺し屋を雇うの」
「バカなことを言うな。殺し屋を雇うだけの大金を動かしたら、警察にバレる」
「大丈夫、私に任せて。私には貯金があるし、それにいいツテがあるの」
「ダメだ。絶対にいけない。君が悪いことをするぐらいなら、ぼくは死んだ方がましだ。だから……そうだな、決めたよ」
「成幸さん……」
上司の目は、とめどなくうるんでいた。
ルキアは夕食を食べながら、ママに話しかける。
「パパ遅いね」
彩菜はルキアに優しく答える。
「パパは仕事で忙しいの。いまが大事な時期だからって」
「パパってたいへんなんだね」
成幸が帰宅したのは深夜だった。ルキアが目覚めてパパお仕事お疲れ様、と抱きついてくる。成幸はルキアのほっぺにキスをしてから、ルキアを寝かしつける。
部屋が夫婦の二人だけになったとき、成幸は安堵の息ををついた。
「いやあ、今回は大変だった。けど、これでひと段落かな」
成幸はスーツの内ポケットから封筒を取り出した。その封筒には数百万円の現金が入っている。
「これが殺し屋を雇うための金だ。自分が雇うと説得して、あの女に金だけ出させた。足のつかない安全な金だ。ところで、そっちはどうだ」
「不倫相手が離婚専門の弁護士を雇うと言い始めたから、あと少しね。あとは現金どう引き出すかだけど、そのために私を攻撃してくれないと」
「そうだなあ」と成幸は本を手に取った。
お互いに演技は楽ではない。だから、実際に殺されそうになるが一番だ。本当だからこそ話に迫力が出る。不倫相手も信じる。
殺そうとするが、殺してはいけない。この微妙なラインが難しい。
「お互いに生命保険もかけているとはいえ、ほどほどにね。いつ事故が起こるのか分からないのだから」
妻の含み笑いを横目で見ながら、成幸は新しいミステリ小説を読み始めた。
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いつも気になっていたのですが、ChatGPTによる採点の仕方はどうやっていらっしゃるのですが?
「この作品はショートショートですが、100点満点で何点でしょうか?」、このような形で指示すればいいのでしょうか?
また、第41回の小どぞで佳作を取った「子熊のぬいぐるみのベアリ」をChat GPTは何点と採点したのでしょうか?
ご質問についてです。
1)ChatGPTへの採点方法
自分はこんな感じで命令をしています。
>以下は「○○○」をテーマにした2000字前後の掌編です。
>この作品に100点満点で点数をつけてください。
2)小熊のぬいぐるみのベアリの点数
採点させたら85点です。
いままでの経験からすると、点数が高いからといって期待できるわけではありませんが、点数が低い作品はほぼ採用されていない感じですね。
経験的には85点がボーダーかなと。