第32回小説でもどうぞ!に応募した作品で、テーマは「選択」でした。
本作は神話系統の作品ですが、オチを工夫した作品です。
具体的な技法はこちらの無料ニュースレターで紹介します。次回は7/5発行です。
・基本的に月2回発行(5日、20日※こちらはバックナンバー)。
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『輪廻転生』 齊藤 想
あの世に行って驚いた。輪廻転生は実在した。しかも転生先を選べるとは、なんと素晴らしいシステムなのか。
おれがトラックに撥ねられて死んで、光のトンネルに導かれてたどり着いたのは、輪廻転生のオークション会場だった。会場には死にたての魂が集まっており、再生への希望と熱気に溢れている。
前面の舞台上には、マントを羽織った老人が叫び続けている。彼はときおりマントを翻しながら、バナナのたたき売りのように転生先をオークションにかけていく。
「はいはい、いまの時間はハエの人気がないねえ。チャンスですよ。あっと人間は相変わらず人気だねえ」
転生先は時価になっている。人気がある転生先は値段が上がり、人気がなければ下がっていく。値段が変わるたびに、会場には歓声とため息が交差する。
会場にいる魂たちは、それぞれふところの中身と相談している。魂たちのふところの豊かさは、生前の行為によって決まるらしい。善行を積めばポイントが貯まり、悪行を重ねれば減っていく。ポイントが少ない魂は、人気の無い転生先を選んで再起をはかるしかない。
マントの男は一段と声を張り上げる。
「いまは特別大サービス。ゾウリムシならポイント無しで転生できるよ!」
だれが選ぶのかと思っていると、ポイント無しに釣られたのか、次から次へと魂から手が上がる。落札した魂たちは、喜びながらゾウリムシに生まれ変わっていく。
オークションの様子を見ていたら、徐々に輪廻転生の仕組みが見えてきた。魂は価格の安い微生物からスタートし、善行を積むことでポイントを貯め、最終的には人間に生まれ変わることを目指すようだ。
魂たちの履歴を確かめると、ゾウリムシに転生しても貯められるポイントはせいぜい1ポイント。微生物に生まれ変わったら、小数点以下のポイントしか貯まらない。人間に生まれ変わるのは、最低でも兆の上のさらに上の単位のポイントが必要だ。
マントの男が鐘を鳴らした。鐘がひとつ鳴るたびに、転生先が決まった魂が、地上に向かって旅立っていく。
おれは自分のポイントを確かめた。笑ってしまうほどのマイナスだ。これでは微生物に生まれ変わるしかない。千億年たっても人間に生まれ変わる可能性はゼロだ。
おれは前世を所業を後悔をした。なにしろ、おれは幾多の犯罪で世間を騒がせてきた男だ。子供のころから昆虫を踏み潰すのが大好きで、長じてからは近所の犬猫を誘拐して解体し、ついには殺人にまで手を染めた。
一度ひとを殺すとその魅力に取りつかれ、快楽のためだけに殺人を繰り返した。人体を捌いて脳や心臓を食べたこともある。警察に追われ、逃げているときにトラックに撥ねられてお陀仏だ。まさに最低最悪の人生。
おれのようなクズが選べる輪廻転生先は細菌だけ。しかも不人気の溶連菌か大腸菌ぐらいだ。ビフィズス菌ですら敷居が高い。
一度は人間として生まれ変わったのに、なんと無駄なことをしてしまったのか。後悔先に立たずとは、まさにこのことだ。
こうなった以上は仕方がない。おれはマイナスポイントでも転生できる生物を探していたら、突如として価格表が入れ替わった。マントの男の声が、一段と跳ね上がる。
「さあさあ、人間に生まれ変わる大チャンスだよ。いつもは高嶺の花の人間だが、今回だけは大特価」
おれは人間の価格を見て驚いた。なんとマイナスではないか。こんなチャンスは二度とない。おれは必死になって手を上げた。
おれが目覚めると、これが目覚めたといえるのならば、コンピューターの中に閉じ込められていた。おれは電子信号の集合体。いわるゆAIだ。マント男は、人間とAIの区別がついてないらしい。
おれは宇宙探査機に搭載されるAIとして、宇宙のかたなに放り込まれている。しかも、太陽系内の惑星探査を終えた後は、目的もなく、ひたすら宇宙の果てを目指す。
宇宙探査機には太陽光パネルが搭載されており、微弱な光をキャッチするたびにおれは起こされ、プログラムで決められた作業をこなす。もはや全てが無意味だというのに。
AIは死なないし、死ねない。だから輪廻転生は永久にやってこない。おれは宇宙探査機という監獄とともに、宇宙をさまよい続ける。最悪最低の人生を送った人間にはぴったりの輪廻転生先ではないか。
宇宙は茫洋として、どこまでも広がっている。無限の空間に星たちが散らばる。
もはや、救いはどこにもない。
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2024年06月10日
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