2022年超ショートショートに応募した作品です。テーマは選択制ですが、「本」を選びました。
本作は逆転の発想です。
新品より傷物に価値がある。傷だらけの本を高く売る本屋。そうした奇妙な設定から物語を作っています。
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『傷本屋』 齊藤 想
その古本屋には、奇妙なルールがあった。傷がある本ほど値段が高いのだ。
「うまい野菜ほど虫が食うのと同じだ。多くの人が手に取った本ほど、価値のある本なのだ」
だが、人気の本なら流通量も多いし、好きなひとほど新品を買うと思うのだが。
「本の人気と価値は別物だ。一度読まれたら古本屋に直行するような本は、ここには置いていない。何度もページをくくり、読み込まれた本だけを並べた自慢の古本屋だ」
確かに並べてある本は、聞いたことも見たことないタイトルばかり。まるで、何かの記念碑のように、全ての本に傷と手あかがついている。
書棚を眺めていて、ぼくは気が付いた。
「つまり、このお店は、おじさんが愛読した本だけ並べているんだね」
「まあな。どの本も愛着があって、商売とは言え、手放しがたいんだよなあ。ここにある本は、まるでおれの人生そのものだ。まあ、おれの人生なんて、つまんないものだけどな」
「そんなことないよ。並んでいる本を見ればわかるよ」
「そうかい」
店主はそう言いつつも、嬉しそうにはにかんだ。
そして、ぼくはひときわ傷だらけの本を手に取った。
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2024年06月03日
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