2024年06月03日

【掌編】齊藤想『傷本屋』

2022年超ショートショートに応募した作品です。テーマは選択制ですが、「本」を選びました。
本作は逆転の発想です。
新品より傷物に価値がある。傷だらけの本を高く売る本屋。そうした奇妙な設定から物語を作っています。

具体的な技法はこちらの無料ニュースレターで紹介します。紹介のメルマガは7/5発行です。



・基本的に月2回発行(5日、20日※こちらはバックナンバー)。
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『傷本屋』 齊藤 想

 その古本屋には、奇妙なルールがあった。傷がある本ほど値段が高いのだ。
「うまい野菜ほど虫が食うのと同じだ。多くの人が手に取った本ほど、価値のある本なのだ」
 だが、人気の本なら流通量も多いし、好きなひとほど新品を買うと思うのだが。
「本の人気と価値は別物だ。一度読まれたら古本屋に直行するような本は、ここには置いていない。何度もページをくくり、読み込まれた本だけを並べた自慢の古本屋だ」
 確かに並べてある本は、聞いたことも見たことないタイトルばかり。まるで、何かの記念碑のように、全ての本に傷と手あかがついている。
 書棚を眺めていて、ぼくは気が付いた。
「つまり、このお店は、おじさんが愛読した本だけ並べているんだね」
「まあな。どの本も愛着があって、商売とは言え、手放しがたいんだよなあ。ここにある本は、まるでおれの人生そのものだ。まあ、おれの人生なんて、つまんないものだけどな」
「そんなことないよ。並んでいる本を見ればわかるよ」
「そうかい」
 店主はそう言いつつも、嬉しそうにはにかんだ。
 そして、ぼくはひときわ傷だらけの本を手に取った。

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posted by 齊藤 想 at 21:00| Comment(0) | 自作ショートショート | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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