2025年02月03日

【掌編】齊藤想『長逗留』(chatGPT_85点)

第4回水の都おおがき短編小説コンクールに応募した作品です。
水の都おおがき短編小説コンクールの募集要項は「水の都「大垣」を舞台とする、あるいは大垣ゆかりのエピソードや事物が登場する4,000字以内の短編小説」です。
大垣の観光地案内等を閲覧しましたが、いまいちピンとくるものがありません。そのため、思い切って時代小説にして「赤坂宿」を舞台にしました。

ということで、具体的な技法はこちらの無料ニュースレターで紹介します。この作品の技法は3/5発行のニュースレターにて!



・基本的に月2回発行(5日、20日※こちらはバックナンバー)。
・新規登録の特典のアイデア発想のオリジナルシート(キーワード法、物語改造法)つき!

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『長逗留』 齊藤 想

 美濃国赤坂宿は、中山道六十九次のうち江戸から数えて五十六番目の宿場町だ。平家物語にも登場する由緒ある土地だが、ここで長逗留する武士は珍しい。
 赤坂宿は商人の町だ。打瀬川の水運に恵まれ蔵米輸送の中継基地として栄え、近隣の金生山から採掘される石灰岩と大理石の積み出し港にもなっている。
 「切り捨て御免」がまかり通ったのは、戦国時代を引きずる江戸初期までだ。江戸後期になると、商人相手に不用意に刀を抜くだけで厳罰に処される恐れがある。
 お家大事の武士たちは、商人との意図せぬトラブルを避けるため、赤坂宿を素通りするのが定跡となっていた。
 そのような赤坂宿に、身なりの立派な旗本が長逗留をすると言い始めたので、またたくまに赤坂宿の噂となった。
 彼は国見権三郎と名乗った。国見が腰を落ち着けたのは、赤坂宿でも安宿の部類に入る三隈屋だった。
 宿場には、怪しい旅人が泊まると奉行所に届ける義務がある。だが、国見は関所手形を持っており、手続き的には問題ない。
 国見は何をするわけでもなく、毎日赤坂港の近くで小鮒釣りを続けている。
 間の悪いことに、近々、彦根藩井伊家の姫君が円興寺に参拝するために赤坂宿を通過する予定になっている。厳戒態勢が引かれているさなかに国見が事件を起こしたら、赤坂宿の存亡にかかわる。
 心配した名主の矢数三郎は、国見が宿泊する三隈屋の主人と女将のふじを呼び出した。
 矢数が三隈屋に尋ねる。
「あのお武家様は、毎日何をしているのだ。知っていることがあれば、申してみろ」
 三隈屋は平伏しながら、いつもの様子を説明する。何をするわけでもなく、毎日のように赤坂港の近くで釣りをしている。晴れの日も、風の日も、そして雨の日も。
 矢数は首をひねった。
「雨の日に釣りとは、少々怪しいのではないか。石灰岩と大理石の産地である金生山を探りに来た隠密かもしれぬ」
「金生山には近づいていないようですが」
「山に近づかなくても、船を数えているだけでもかなりの事が分かる」
「三隈屋としても、お武家様の行動には気をかけております。とはいえ、長逗留しているだけで奉行所に訴え出て、本当に公用だったら我々が処罰されてしまいます」
「確かに、三隈屋の言う通りではあるが」
 矢数は腕を組んで考え込んだ。三隈屋も困ったように首をひねる。
 そんな二人をしり目に、女将のふじがケラケラと笑い声をあげた。
「悩んでいるぐらなら、本人から直接聞いてみたらどうですか。何の目的で、いつまでいるのですかって」
 ふじは江戸の女だ。既婚者だが、酒乱で暴力的な旦那から逃げ出し、いまは三隈屋に住み込みで働いでいる。
 ふじは明朗活発な性格で、だれかも好かれ、頼りにされている。とはいえ、あまりの豪胆さに矢数は驚いた。
「それを聞けるのか? お武家様に怒られたりしないのか」
「大丈夫ですよ。同じ江戸出身ですし、年齢も近いようです。男が聞けないことを聞き出すことが、女の役目ですから」

 国見が泊まり始めて五日目の朝だ。ふじは静かに襖を開けた。
 国見は木片に小刀を当てて、何かを彫っていた。削りクズが飛び散らないよう、畳には紙が敷かれている。
 ふじは丁寧にお辞儀をする。
「おはようございます。国見様は仏さまを彫られているのですか。なかなか、見事なものでございますね」
 国見は不愛想に答える。
「仏ではない。これは愛染明王だ。用がないなら部屋から出てもらおうか」
「そんな堅いことを言わずに、粗茶をお持ちしただけでございます。たまたま出入りの商人から遠州袋井の産をいただきまして」
「それはご苦労だった」と言いつつ、国見は付け加える。
「突然部屋に現れたということは、女将は宿代の心配をしているのかね。いつ清算してもかまわないのだが」
 ふじはケラケラと笑った。
「そのような心配はしていませんよ。ところで、国見様はどちらからおいでなさったのですか? 江戸とはお聞きしましたが、江戸といえどもひろうございますから」
 国見は短く答えた。
「板橋だ」
「あら偶然。私も板橋の出身でございます。とはいえ、私は板橋から逃げてきた女でございますけど」
 国見は小刀を畳に置くと、木くずが散らばっている紙を折り、大切そうに錦袋に落とし込んだ。そして、錦袋の口を固く閉じる。
「逃げてきたということは、何か辛いことでもあったのかね」
「ええそうです。旦那は板橋仲町の紙問屋の二代目でした」
 板橋仲町という地名に、国見がわずかに反応した。
「旦那は酒乱で、毎日のように酒を飲んで暴れていました。そのような状態だから商売も上手くいかなくなり、ますます酒に逃げるようになりました」
「子供はいないのかね」
「いなかったのが幸いで、体一つで逃げてきました。うちの主人は方々に不義理を重ねていたので、私が先代から預かった最後の金子で清算して、中山道を走り続けました。それで気が付いたら、赤坂宿に住み着くことになったのです。ここはいい土地ですよ」
 国見はふじの話に、相槌を打つ。
「女のひとり旅は大変だったろう」
「けど、人の世は情けといいます。たくさんのひとたちに助けられ、なんとかここまで生きてきました。せっかくなので、明日は小鮒釣りにご一緒させても良いですか」
「それはちょっと……」
「女が釣りをしたらおかしいでしょうか。近くで釣り糸を垂らしているだけで、決してご迷惑はおかけしませんから」

 翌朝、国見はいつものように、打瀬川に釣り糸を垂らした。ふじの釣竿にはよく小鮒がかかるようで、子供のような嬌声が絶え間なく聞こえてくる。
「国見様、また釣れましたよ! 釣りって面白いものですね」
 国見は苦笑いをしながら、小さく首を横に振る。
 しばらくして、井伊家の旗を掲げた船が赤坂港に入ってきた。お付きの人に囲まれながら、着飾ったお姫様が船から下りてくる。
 姫様が釣りをしている国見を見据える。
「ところであの者は」
 お付きの者が慌てて、姫様を国見から離そうとする。
「あれはただの浪人者でしょう。決してお近づきにならないように」
 国見はすっと立ち上がると、錦袋から木くずを取り出し、お姫様の前で飲み込んだ。
 突然のことに目を丸くしていた姫様は、しばらくして寂しそうな顔になった。そして、お付きのひとたちに答える。
「確かに浪人者のようです。私には無関係のひとです。さあ、先を急ぎましょう」

 ふじは国見に近づいた。
「お役目は無事に終わりましたか」
 国見は小さくうなずく。
「あの木片は、板橋仲宿の縁切榎ですね。この榎の木片を煎じて飲むと、悪縁を切ることができるといわれます。私も前夫との縁を切るために飲んで逃げてきたのです」
 国見は黙って聞き続ける。
「国見様が井伊家の姫様と知り合いになったきっかけは下々には伺い知れませんが、姫様に縁談が持ち上がっても二人の思いは分かちがたく、姫様から縁切榎を所望されたのでしょう。それを渡す唯一の機会が、紅葉の名所でもある円興寺への参拝だった」
 国見は竿を仕舞うと、魚篭に入れていた小鮒を逃がした。小鮒は嬉しそうに、打瀬川を泳いでいく。
 その様子を見ていた国見が、口を開く。
「私には手の届かない相手だと知っていました。姫様からしても親の決めた相手に嫁ぐのが幸せなはずです。だから、私はお姫様に私のことを諦めてもらうために、目の前で縁切榎を飲み込んだのです」
 国見の目に微かな涙が浮かんだ。そして、懐から彫り続けていた愛染明王を出す。
「愛染明王の十二大願に「女性に善き愛を与えて良い縁を結ぶ」があります。私は、彼女は幸せになってくれると信じています」
 国見は愛染明王を打瀬川に浮かべた。そのまま立ち去ろうとする国見に、ふじは背中から声をかける。
「赤坂宿の住人になりませんか」
 国見の足が止まる。
「旗本は長旅が許されていません。勘当覚悟で長逗留されたのですよね。赤坂の人々は親切ですし、それに男一人ぐらい、仕事を見つけるのは簡単ですから」
 愛染明王が波に揺られて下っていく。
「私は三十代ですけど、いまだって、新しい恋を探しているのです。国見様だって、人生これからです」
 国見は、人目をはばからずに泣いた。
 もう縁切り榎は必要ない。

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posted by 齊藤 想 at 21:00| Comment(0) | 自作ショートショート | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

最近の金融・投資【令和7年2月第1週】

〔先週の株式市場〕
先週の自分の持ち株はプラス5日とずーっとプラス。
こんな週もあるものですね。週プラスだけでなく、1月トータルもプラスになりました。
新NISAで1月上旬に購入した株があったのですが、それがずーっとマイナスだったのが、おかげ様でプラス圏に浮上です。
こんなに連続して上がると、きっと来週はバーンと下がる。そんな予感。

〔アルコニックスの株を買増した話〕
株主優待の制度が代わり、100株でもらえていたのが300株に変更となった。
まあ、そんなに株価が高い企業でもないし、変更はやむを得ないのかなと思う。いままで優遇しすぎといいますか。
基本的に株主優待目的で購入した株ですが、株価はまあそれほど変動がないし、配当利回りも良いので買増すことにする。
100株から300株にパワーアップです。
株価がそんなに高くないから、という部分も多いのですが。
posted by 齊藤 想 at 12:00| Comment(0) | 金融・投資 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする