2025年01月14日

【映画】黒い司法/0%からの奇跡

1988年に起きた実話を元にした熱い司法ドラマです。


黒い司法 0%からの奇跡 ブルーレイ&DVDセット (2枚組) [Blu-ray]

黒い司法 0%からの奇跡 ブルーレイ&DVDセット (2枚組) [Blu-ray]

  • 出版社/メーカー: ワーナー・ブラザース・ホームエンターテイメント
  • 発売日: 2020/06/17
  • メディア: Blu-ray



ストレートな勧善懲悪ドラマです。
アラバマ州で、無実の黒人が逮捕され死刑判決を受けます。
容疑は白人女性の殺害ですが、証拠は司法取引で偽証をした重犯罪人の証言のみ。
この証言に反する他の証人は無視されます。
主人公はロースクールを卒業したばかりの若手黒人弁護士です。
彼は刑務所で受刑者と面談し、最初は後ろ向きだった死刑囚たちの信頼を勝ち取り、再審請求を求める活動を始めます。
ところが死刑判決を維持したい警察は様々な嫌がらせをします。
主人公も不必要な身体検査を受け、また何もしていないのに停車させれて捜索を受け、拳銃をつきつけられます。
せっかく確保した黒人の証言者は、警察から「偽証」で逮捕され、圧迫から証言を取り下げざるを得なくなります。
白人の同僚は友人を失い、自宅に爆弾を仕掛けたとウソの電話をされるなど嫌がらせを受けます。
決定的な証拠を裁判所に突き付けても、裁判所は認めません。
そうした様々な苦難を乗り越え、希望を捨てずに、TV番組に出演したり、最高裁まで訴えることで、再審請求を勝ち取り、無実の黒人は釈放されます。
とにかく余計なテーマを省いた、正義のみスポットをあてたよい映画だと思います。
家族愛もありますが、それは「正義」を強調するためのスパイスで、あくまでストレートに正義を求める映画です。
決定的な証拠を掴んだと思っても潰される。これが3回繰り返される構成も良いです。また警察による嫌がらせも、実話を元にしているだけあって、実にリアルです。
あと密かに、糸の役割をしている刑務官がいます。
彼は映画前半では主人公に嫌がらせをするのですが、物語が進むにつれて徐々に柔らかくなり、死刑囚と家族との挨拶の時間もあえて取らせるようになります。
主役のマイケル・B・ジョーダン、死刑囚役のジェイミー・フォックスはとてもいい演技です。とくにジェイミー・フォックスは表情の少ないキャラを演じつつ、わずかな仕草で感情を表現するという素晴らしい演技だと思います。
全米4館の限定公開から、最終的には2375館まで拡大され、興行収入50百万ドルを稼ぎました。
評論家の評価も、確かに説教臭い部分もありますが(アメリカの司法ドラマのお約束)、非常に高いです。

司法ドラマの良作を見たいひとのために!
posted by 齊藤 想 at 21:00| Comment(0) | 映画評 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

【書評】村上春樹『1Q84』

「毎日出版文化賞 文学・芸術部門」受賞作です。


1Q84(BOOK1~3)合本版(新潮文庫)

1Q84(BOOK1~3)合本版(新潮文庫)

  • 作者: 村上春樹
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2020/12/18
  • メディア: Kindle版



ストーリーとしては、女性インストラクターであり、殺し屋でもある青豆が、首都高速から非常用階段で地上に降りるという些細なきっかけにより、1984年から1Q84年という異世界に入り込みます。
その世界で、彼女は、親しくするマダムから幼女を犯し続ける宗教団体のリーダーを殺害するよう依頼されます。
天悟は小説家志望のライターですが、新人賞の下読みでであった『空気さなぎ』に衝撃を受け、編集者からの依頼でリライトを担当します。
物語としては主にこの2人の視点が交互に入れ替わる形で進みます。
構造としては非常に単純で、「行って帰る」と「離れていた二人が再会する」の組み合わせです。
ですが、村上春樹の特徴である平易な文章と、適度な描写、さらにはときおり挟まれる文学的なウンチクで読者をぐいぐい読ませる力があります。
ファンタジー的な描写も、修辞的な技巧で避けるのではなく、きっちりと書ききるところがすごいです。
自分は村上春樹を「文章を読ませる作家」と思っていましたが、ストーリーを作る能力においても、一級品であることを示した作品でもあると思います。

じっくりと長編を読みたい人のために!
posted by 齊藤 想 at 12:00| Comment(2) | 書評 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする