
モンスターマザー―長野・丸子実業「いじめ自殺事件」教師たちの闘い―(新潮文庫)
- 作者: 福田ますみ
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2019/07/19
- メディア: Kindle版
事件が起きたのは平成17年です。
丸子実業バレー部の部員が「お母さんがねたから死ぬます」という遺書を残して自殺しました。
自殺する前、生徒は家出をします。
部員や教師は必死に捜索しますが、母親は学校に対して常軌を逸した要求をします。
さらに母親はうつ病の診断書を立てに、「息子が上級生にいじめを受けた。発声が不自由なことを真似されて精神的苦痛を受けた」と主張し、原因が学校にあるとして、度々謝罪文、教師の配置転換・処分、上級生の退部要求を繰り返します。
生徒は通学できなくなり、母親が行う電話・FAX・手紙などで教師、学校、県、部員の保護者に対する執拗なクレームに、体調を崩す関係者もでてきます。
学校側は県とも連携を取りながら、母親をなだめつつ、生徒の復学に向けての話し合いを続けます。
同級生からの話によると、本人は通学を望んでいるが、母親が禁止しているようです。
そして、紆余曲折有り、明日から通学するタイミングで、生徒は例の遺書を残して自殺します。
息子が死んで、母親の行動はエスカレートします。
マスコミを呼び学校側を一方的に非難し、人権派弁護士がついて校長を殺人罪で告訴・損害賠償請求も起こします。
報道被害により、丸子実業の関係者は白い目で見られ、マスコミ報道を鵜呑みにした他者からいわれのない非難を受けます。
この状況に、県・学校・保護者が一丸となってついに反撃を開始します。
精神的苦痛を受けたとして逆に母親を提訴し、裁判へと突入します。
そこで明らかになる、様々な事実。
実は生徒は母親から育児放棄に近い状況にあり、母子分離に向けて具体的に動いている途中でした。
欠食や入浴の不足など、中学時代から家庭に問題があることは把握されていました。
さらに母親はトラブルメーカーで、元夫への暴力・暴言を繰り返した事実、さらにはつじつまの合わない供述を繰り返したこともあり、裁判は学校側全面勝訴に終わります。
「母親がねたから死にます」の遺言も、実は「ね」ではなく「や」で、「母親がやだから死にます」であることが強く示唆されています。
どうやら、生徒が楽しみにしていた復学の日に、学校や先生を非難する手紙を学校で配布するよう命じられ、それが最後の引き金を引いてしまったようです。
本件についてですが、トラブルへの対応という意味では、非常に良い事例だと思います。
学校は上部機関や保護者とも連携を取り、不当な要求には毅然とした態度で拒絶しています。
福岡市「殺人教師」事件との対応とは天と地との違いがあります。
しかし、裁判に勝ったとはいえ、バレー部の部員たちの学生生活は台無しにされ、学校、教師、生徒・保護者たちが受けた被害は回復されません。
垂れ流しのマスコミ報道でついた悪いイメージも消えません。
なにより、生徒の自殺を防げなかった十字架を、関係者は一生負うことになります。
それにしても思うのは、マスコミ報道のテンプレ化です。
おそらくは今回も、「学校」=「悪」と決めつけて、スタンプのように記事を書いたのでしょう。
報道が事実誤認だったとしても、裁判結果がでるころには事件は風化し、よほどのことがない限り訂正されることもない。
ジャーナリズムのサラリーマン化というか、報道の危機を感じます。
丸子実業「いじめ自殺」事件の真相をより深く知りたいひとのために!